リケジョのミャンマー赴任記。

湘南育ちの品質保証。ミャンマーから日本に帰国。仕事、人生、めいっぱい楽しみます!

僕の彼女は品質保証 #25「夢」

僕の彼女は品質保証である。

彼女はときどき、不意打ちで突拍子もない質問を繰り出すが、
今日の質問はこれまでで一番突然で、一番まじめな質問だった。


「あのさ、夢追ってる?」

 彼女の会社Acroquestでは、月に一回、

MA(Meeting of All staff)という全体会議で
全社員集まって会社の方針・ルールを決めている。
会議のあとは全社員参加の懇親会をしているそうだが、
そこで彼らは「夢」を語り合ったらしい。

 

夢を語った懇親会。その発端は、

「結婚ボケ・婚活ボケの人は自分の夢を追いかけてるのか?」
という副社長の言葉だったそうだ。

 

「人生の転機」の威力は想像を超えるものらしい。

相手がいて、家族がいて、そちらを優先する。
当然そうすることがある。

 

もちろん仕事に影響が出ないように各自調整するが、
それでも時として、仕事に対する緩みを生むことがある。


なぜか。

満たされているから。

「でも、それは。」

僕が言うと彼女は目を伏せた。

 

そう、パートナーを得て、

幸せで満たされることはもちろん大切なことだ。

 

では、それによってその人が追いかけていた夢はどうなっているか。
夢に向かって歩いていたその歩調は、歩幅は、どうなっているか。

 

「結婚自体が悪いこと、じゃない。 

 それによって夢への向き合い方がどうなっているか、
 確認する必要があるんだろうね。」

「ボケ防止のためには、だね。」

 

僕の言葉に彼女はうなずき、アールグレイの茶葉をポットに入れた。

柑橘の華やかな香りが広がる。


以前聞いたことがあるが、彼女の夢は
「世界中のエンジニアが
 プロジェクトの失敗や心配にとらわれることなく、
 自分の技術に誇りを持ってクリエイティブに開発できる環境をつくりたい」
なのだそうだ。

 

他のエンジニアがエンジニアらしく生き生きとしていられるために

サポートすることが、品質保証の彼女の仕事であり夢であり、
そこに向かって彼女は走り続けるだろう。

 

彼女が夢を忘れるなんて想像できないし、

僕らは結婚なんてまだ早いけれど、

彼女が小さな幸せで満足しそうになったとき、

彼女に彼女自身の夢を思い出させる責任が僕にもあるのだろう。

 

「お湯、沸いた~」

扉を開ける彼女の後姿に目をやる。
遠くで聞こえるマグカップがぶつかる音に
僕は耳を澄ました。

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つづく

※この記事は、2014年2月24日の記事に加筆修正したものです。