ミャンマーへの祈り
ミャンマーでクーデターが起きた。
日に日に緊迫していったこの数日のこと、
日本からオンラインで見た同僚たちの表情を、私は忘れない。
2月1日(1日め)
早朝、部下(ミャンマー人、現地勤務)から、
「電話・インターネットがつながりません。
今は固定回線で連絡できているけど、あと30分で
つながらなくなるかもしれません。」と連絡が入る。
あと30分で、通信業者の勤務開始時間となり、固定回線も切れそうだったからだ。
社員の状況を確認し、オンラインミーティング。
緊急時どうするか、を全社員で確認する。シニアスタッフたちに
「何が起きても、命を優先して。誰よりも冷静に、強くいるんだ。」と話した。
全員ではないが、社員の固定回線が途切れた。
国軍系のTV局のみが流れている、と知る。不安をあおるフェイクニュース。
朝途切れたネットワークは、昼頃に回復し始めた。
2月2日(2日め)
「もしもこうなったらどうするか」という会話を部下と繰り返す。
「まず、命と安全を最優先しよう。そのうえで・・・」そんな会話を繰り返す。
夜、8年間日本・ミャンマーで一緒に働いてきた同僚(ミャンマー人、現地勤務)が泣いた。
皆の前では冷静で聡明な彼女が、怒りで顔を歪ませていた。
こんなときに、なんでオンラインなんだよ。
「もし日本とミャンマーがどうにかなったら、私たちは一緒に働けないよね。」と言われた。
「私はミャンマー人と一緒に働いてない。あなたと働いてる。一緒に努力しようよ。」本当は何といえばよかったんだろう。
怪物を追い払う伝説に沿って、市民たちは夜になると鍋を叩き、音をだしている。
2月3日(3日め)
Civil Disordience(市民的不服従)運動が盛り上がっている。
1988やサフラン革命の教訓からか、市民は外に出ずに意志を示している。
反して、軍政支持者はデモを行い、あおっているようだ。
フェイクニュースがあふれている。
10,000MMK紙幣が使えなくなるから、両替するために街に出ようとか。
「冷静に必ず根拠を確認しよう」と社員に話す。
社員sは、チームワークで情報収集とソース確認を行い、フェイクを見分けている。
尊敬の一言だ。
2月4日(4日め)
FacebookとInstagramにアクセスできなくなった、と連絡が入る。
同じく日本にいるCTOや技術リーダーにVPNについて相談する。
社員たちの表情がかたい。
彼女たちの「仕事」という日常を冷静に守り続けることが、
自分にできる唯一のことだ、と自分に言い聞かせる。言い聞かせ続ける。
2月5日(5日め)
Facebook, Instagramに引き続き、twitterもアクセスできなくなった、と連絡が入る。
いたちごっこだ。Civil Disordience運動もヒートアップしている。
夕方は、Zoomでのオンライン会議もままならなかった。
本社副社長の「こういうときこそ笑顔。落ち込むということは負けたことになる。」という言葉で、社員が笑顔を取り戻す。
土日に向けて、シニアスタッフが
「皆、命と安全が最優先事項だよ。今週もお疲れ様!」と呼び掛ける。
不安定なネットワークのなか、笑顔で「また来週ね」と手を振った。
2月6日(6日め)
ネットワークが途切れた。社員と連絡が取れない。
この土日はネットワークをカットダウンする、という政府アナウンス。
何が起きているかもわからない。ただただ、無事でいてほしい。
2月7日(7日め)
一番うちで長く働いている社員から、連絡が入った・・・!
シニアスタッフたちに社員の安否確認をしてほしい、と伝える。
30分後、全社員の無事を確認し、ようやく生きた心地になる。
たった1日だが、こんなに心が重苦しかったことはない。
ヤンゴンでは、レーダンやダウンタウンを中心に1万人規模の抗議活動が行われている。
誰も犠牲になることなく、一日も早く、
ミャンマーにミャンマーの人たちが穏やかに暮らせる平和が訪れてほしい。