Omnibus ~閉店30分前に来る女~ #5「灯りの下の人。」
ひとつかふたつ、星をつかめそうな夜だった。
ロウソクの灯を眺めながら、裸足で歩く。
温かさと冷たさを同時に持て余した。
人間は、知能を持ったかすではないか。
奇跡の連続のような化学反応に身をまかせ、生かされて呼吸している。
言語を生み、生んだものどもを誰かを傷つけるために使っている。
煙はいつだって固体であり、いつでも胸をつまらせた。
花を持ち、水を持ち、座って息をする。
本当は、綺麗で汚い丸い月のしたで、灯りを手に持って生きるほかなかった。
ぽこぽこと音がする。
温かい珈琲に灯が揺れていた。