Omnibus ~閉店30分前に来る女~ #3「鏡を覗く女たち」
腕時計を見る。
日本語レッスンが終わって30分、そろそろ来る時間だろう。
視線を戻すと、暗闇の扉が開き、ひょっこりとこちらを覗き込む女性。
仕事中は括っている髪を流し、キャップをかぶった彼女に名前を呼ばれる。
お疲れ様。声をかけると、
日本語のテキストがずっしりと詰まったカバンを
向かいの椅子にかけて、笑った。
互いに幼い社会人だったときに、ネットワーク越しに言い合ったことも、
日本で一緒に住んでいたときに、ふたりで酔っ払って後輩に苦笑されたことも、
ミャンマーで喧々諤々の雰囲気で言い合うこともある、国籍が違う同期である。
女は簡単で、難しい。
彼女が考えていることはわかりやすいけど、
同じくらい見透かされている。
互いに鏡を持ち合って覗き込む。
反転した姿がお互いの目に映っている。
彼女はいつでも、今の私だ。
温かいコーヒーに彼女は砂糖とミルクを溶かす。
水面の歪んだ曲線は、あっという間に見えなくなった。