Omnibus ~閉店30分前に来る女~ #2「答えを継ぐ男」
扉を開けると、いつもの席の向かい側に部下が座っていた。
彼がうどんと親子丼をかきこんでいる最中、向かいに腰を下ろす。
よく食べるね
幾分さめた目を向けたら、いま気づいたのか、
お疲れ様っすという言葉とともに、店で一番シンプルなブレンドを注文した。
彼の家系は、元・寺の坊さんで現・漁師というかわった家系だ。
漁師が美味しいものを食べているのに憧れた先祖が、
それまでの質素で慎ましい寺生活を捨てて、漁師となったらしい。
そんな先祖を持つ彼が、頭をまるめ、
仏教の国ミャンマーで仕事をし、パゴダで手を合わせる。
因果である。
正解なんて、ないですからね、
笑う男は、答えを継いでいる。
正解なんて、あってたまるか、
自分が選んだ道を、正解にするだけである。
そのとき
先祖代々受け継いだ寺を継ぐのが、正しいと言われたかもしれない。
受け継がないことで、それまで脈々と続いた死んだ人たちの生き方を
否定されたと憤る人もいたのかもしれない。
そんなものは結局、どうだっていいのだ。
気の遠くなるような一瞬後にも、答えはないのだから。
Tokyo Brend